お知らせ

千里眼のホラ吹き男

 むかし、子どもにめぐまれない大金もちの長者がいました。

 

「どうしてわたしたち夫婦には子どもができないのだろう」

 長者はいつもなげいていました。たくさんの召使いを使い、なに不自由なく暮らしていながら、このことだけが悩みの種でした。

 

 そんなある日、夫人から「子どもができました」と、長者に知らせがありました。すっかりあきらめていた長者のよろこびはたいへんなものでした。

 

「男の子だろうか、それとも女の子が生まれるのだろうか。 いやいや、じょうぶで元気な子ならどちらでもいい。うれしいことだ」

 

 長者は、やがて生まれてくる子どもの顔をあれこれ想像しながら、待ちきれない思いでした。まだ生まれない子どもの名前を考え、生まれる日を待ちわびていました。

 ある日、長者は、お釈迦さまをお招きして食事をさしあげました。長者はお釈迦さまにおたずねしました。

「こんど生まれてくる子どもは、男の子でしょうか、 女の子でしょうか?」

 お釈迦さまはおっしゃいました。

「生まれてくる子は男の子だよ。 それも人並みすぐれたりっぱな子だ。大きくなったら人間として幸せな生活をおくり、正しい道をめざして多くの人々を導くであろう」
 長者は、お釈迦さまの予言に大喜びでしたが、その喜びが大きいだけに、なかなかおっしゃることが信じられませんでした。

 ある日のこと、長者は、五万里 (約二〇万キロ、地球五まわり) 先が見えるという評判の千里眼の男を招き、生まれてくる子どものことを占わせました。ところが、男の答えはお釈迦さまと違っていました。

 

「生まれてくるのは女の子じゃ」

 男はもったいぶって言いました。

 

「えっ!ほんとうですか?」

 長者はおどろきました。 どっちが本当か、迷ってしまいました。しかし、千里眼の男もほんとうは自信があったわけではありません。ただ、お釈迦さまの予言に反対したかっただけなのです。

 

「わたしは、さっき女の子であるといったが、これには深いわけがある。 本当をいえば男の子なのだが、その性質はたいへん乱暴で、やがて成長したら、 あなたたち夫婦はじめ人々を不幸にする。だから、あなたたちが不幸にならないように、ことさらに女の子といったのじゃ」

 男は、もったいぶって言いました。長者はあまりに意外なこと聞かされて、なにがなんだかわからなくなってしまいました。

 千里眼男は、さらに自分のウソをかくすため、長者をだまして、夫人を自分の家によび、おなかの中の子を亡きものにしようとしました。けれども、そんな悪いことが成功するはずもありません。 子どもは無事に生まれましたが、夫人の方が死んでしまいました。

 

 男の悪だくみを知ったお釈迦さまは、お弟子にいいつけて、子どもをすくい出されました。

 このようにして生まれてきた子どもは、お釈迦さまがおっしゃったとおり、すくすくと育ち、才能豊かなりっぱな青年になりました。

 

 長者をだました男は、しばらく身をかくしていましたが、いつのまにか、また町にもどってきて、人々をつかまえては「わしは五万里のかなたがみえる千里眼男じゃ」とホラをふいて歩いていました。

 りっぱな青年になった長者のむすこは、こらしめてやろうと、ある日、親戚や友だちをまねいての夕食会をひらいて、その男もまねきました。

 

 夕食会が始まってまもなく、とつぜん男が大声でわらいだしました。

「ウワハハ。これはおもしろい。いまね、ここから五万里の向こうの山でね、猿が水を飲もうとして、うっかり足をすべらせて、川のなかにドプンと落ちてしまったのじゃ。そのかっこうがあんまりおかしかったので、つい、吹き出してしまったのだよ。みんなには見えないじゃろうが、わしにはよく見えるのだよ」

 みんなは、あっけにとられてしまいました。 長者のむすこは、むかしの失敗にもこりず、よくもまぁ、またこんなホラが言えるものだとあきれてしまいました。

 

 しばらくして、大きな皿にもったごちそうが出てきました。 むすこは、召使に命じ男の皿だけは、上からご飯をかぶせて、中のごちそうがみえないようにしておきました。

 男は自分のまえに出された皿は、ほかの人とちがって、ご飯だけなのを見て、むうとして怒りだしました。

「なぜ、わしのだけはごちそうではなくて、ご飯だけなのじゃ。 ばかにしているのか!」

 それを聞いて、長者のむすこは、ニコニコ笑いながら言いました。

「あなたは、いま、だれも見ることのできない遠い五万里の山の猿がころげたので、おかしいといってお笑いになりました。でも、眼の前のお皿のご飯の下に、ごちそうが隠されているのはわからないじゃありませんか」

 

 さすがのホラ吹き男も返すも言葉もなく、顔を真っ赤にして、こそこそとにげだしてしまいました。

 それからというもの、男はけっしてホラをふくようなことはしなかったということです。