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難陀の発心<上>

難陀の発心<上>(なんだのほっしん)

 難陀はお釈迦さまの弟で、たいへんな美男子でした。妻の孫陀利は絶世の美女。難陀は孫陀利を心の底から愛しておりました。

 ある日のこと、お釈迦さまは故郷の迦昆羅衛国(かびらえこく)におこしになり、弟・ 難陀の家にお立ち寄りになりました。

「これはお兄さん、いえお釈迦さま。ようこそ、おいてくださいました。今から孫陀利とニ人で食事をするところ。どうかお入りになってください」

「いや、私は掟により、そなたと一緒に食事はできない。この器に食べ物を入れて持ってきなさい」

 言い終わるや、お釈迦さまは一人、もと来た道を先に帰っていきました。難陀は急いで追いかけました。 たどり着いたところは、教団のお道場でした。難陀はみんなに押さえられ、お釈迦さまの手て頭をすっかり丸ぼうずにされてしまいました。

「さあ、これからみんなと一緒に修行に励みなさい」

 そう言われたものの、難陀は孫陀利のことが頭から離れません。

 居ても立ってもいられず、ある日こっそり、教団から逃げ出してしまいました。

ところが、足早に歩く道のむこうから、お釈迦さまが歩いてきます。難陀はあ わてて木陰に身を隠しました。お釈迦さまが目の前を通り過ぎようとしたとき、 ぜん、突風が吹きました。風は木の枝を吹き上げ、隠れていた難陀の姿が丸見えになってしまいました。

「難陀ではないか。そんなところで何をしている」

「・・・・・・」

「さあ、帰りますよ。私のあとについてきなさい」

「でも、孫陀利が私のことを待っていますから」

「おまえ、そんなに孫陀利のことが好きか」

「もちろんです」

お釈迦さまは腕組みをして、しばらく考えておられました。(つづく)