お知らせ

オウムに教えられたお百姓さん

 世界一高いエベレスト山をまん中にしたヒマラヤ山脈に、一羽のオウムがすんでいました。 この山に住むオウムは、目の見えないお父さんお母さんといっしょに暮らしている、やさしくて働きもののオウムでした。

 

 オウムは、朝早くから、まいにちまいにち、あちらこちらとえさを取ってきては、お父さんお母さんを養っていました。山は頭からすっぽり雪をかぶり、えさをさがすのはとてもたいへんでした。

 

 ある日のこと、山のふもとで、畑を耕していたお百姓さんが、ひとりつぶやいていました。

「この畑で、今までたくさんの作物を作ってきたけど、考えてみればそれは自然の恵みのおかげだ。ありがたいことだ……。そうだ!感謝のつもりで、これからは種をまいて実ったものは、けっして自分だけのものにせず、みんなに好きなように取らせてあげよう」

 

 ひそかにこの言葉を聞いていたオウムは、とても喜びました。 これからは、 あちらこちらと、えさを探さなくてもすむ、なんとありがたいことだろう。 オウムは心の中でお百姓さんに感謝しました。

 それからというものは、オウムはたびたびこの畑におりてきては、作物をついばみ、目のみえないお父さんとお母さんを養っていました。

 

 そんなこととはしらないお百姓さんは、取り入れのときが近づいたので、今年の実りはどうだろうと、畑にきてみると、なんと畑は鳥のために荒らされて、 ほとんど作物はなくなっていました。これをみたお百姓さんは、カンカンになりました。

「みんなに、好きなように取らせよう」といったことは、すっかり忘れてしまっていたのです。

「ようし、憎い鳥のやつめ、いまにひどいめにあわせてやるぞ」と、さっそく網をはって、いまかいまかと、鳥のくるのを、ものかげで待ち構えていました。

 

 そんなこととは知らないオウムは、今日もえさをもとめて畑におりてきましたが、 たちまち網にひっかかってしまいました。

「やぁ、 ざまぁみろ。 おまえが今まで畑を荒らしていたにちがいない。もうゆるさんぞ」

 お百姓は、手にもっていた棒をふりかぶりました。おどろいたのはオウムでした。

「あっ!まってください。 まってください」と、悲しそうな顔をして叫びました。

顔をまっ赤にしたお百姓さんは、かまえた棒をいまにもふりおろさんばかりに、

「ひとが、いっしょうけんめいに育てたものを、食い荒らすとはとんでもないやつだ」

「ああ、あなたは、なんということを言われるのですか……。種をまくときに、誓ったことを忘れたのですか? あのとき、こんどできた作物は、けっして自分だけのものにせず、みんなに好きなように分けてあげようといわれたではありませんか」

「うむぅ……」

 お百姓さんは、ふりかぶった手を震わせながら、赤くなったり、青くなったりしました。

「わたくしは、あなたのやさしい心に感謝しながら、遠慮なくここから作物をもらっていました。いまになって気がかわり網をかけるなんて、ひどいではありませんか」

 お百姓さんは、ふりあげた手のやりばに困りましたが、すじの通ったオウムの言葉にうなだれてしまいました。

「やぁ、わたしが悪かった。自然の恵みに感謝して、この畑の作物が実ったらみんなに分けてあげようと誓ったものの、実りはじめると、いつのまにか欲が出てきて、ついには、はじめの言葉を忘れてしまった……」

 さらに、このオウムが、毎日せっせと食べものを運んでいたのは、目のみえないお父さんとお母さんを養うためであったと知って、とても感心してしまいました。

「これからは好きなだけもっていっていいよ」

 お百姓さんはこういって、さっそくオウムを離してや ったということです。

 

 欲のために、自分の誓った言葉を忘れてしまったお百姓さんは、親孝行のオウムに心の大切さを教えられたのでした。