お知らせ

黄金の毒ヘビ

2023.09.15

ひろい野原のまんなかに、一本の大きな樹がそびえ、真夏のお日さまがそこにだけ影をつくっています。その太い枝に貧しい身なりをした働くことのきらいな一人の男がまたがっていました。幹に背中をもたれさせ繁みのなかに身をかくして暑さをさけています。ウトウトとして、 なんとも心地よさそうです。

 そこへ立派な身なりをした涼しげな二人づ れが通りかかりました。そのうちの一人が、ふと立ちどまり、
「あれ、あれをごらん。……この野原の向こうに小高く見えるところがあるだろう。どうだ見えたかな……」

「……ああ、あの丘のようなところですね。それがどうかしましたか?」

「うむ、よく見なさい。あそこに小さな穴が見えるだろう。あの穴にはとても恐ろしい毒ヘビがいるよ」

「なるほど、いますいます。 恐ろしい毒 ビがたくさんいますね」

 二人は、うなづき合いながら、立ち去っていきました。
 その時、樹の上の怠け者は、聞くともなしに聞いていました。“うん、あの穴に毒ヘビがいる?”……大きく背伸びをした男は、にぶ動作でそこへ行ってみました。すると、たしかに穴がありました。恐るおそる中の ぞくと、なにかキラキラと光っています。

“なんだろう”と手をさしいれてみると、指 先にひやりとした感触がして、思わず手をひっこめました。しばらく様子を見ていました が、なにも動く気配はありません。 気をとりなおして、そろそろと手をいれてみました。 それでも動く気配はありません。男は手に触れたものをさっと指先でつまみだしました。 なんと、それは黄金でした。

「うぁっ、黄金じゃないか……。なにが毒ヘビなんだ。おっ、たくさんあるぞ。しめしめ、こんなありがたいことはない」と、 ひとり言をいいながら、その黄金を掘りだし て、さっそく家に持って帰りました。

 この男は動かないため、着るものも食べるものも貧しく、ほそぼそと暮していました。それが急に大金持ちになり有頂天になって、 くる日もくる日もぜいたくな生活をするようになりました。 その変わりように人びとは首をかしげ、つぎからつぎへと噂がひろがって いきました。

 ある日のこと、この国の役人たちがどかどかとやってきて、男は役所へつれていかれま した。

「いままで貧乏であったお前が、こんな大 金を持っているわけがない。 いずれから盗んできたのか、さあ、正直に白状しろ」と、毎日まいにち責められました。

 盗んだ身おぼえのない男は、本当のことを いっても、だれも信じてくれません。 とうとう“しばり首の刑”を いいわたされてしまいました。

 いよいよその日がきました。 お城の広場には小さなやぐらのような台がつくられています。 男は台の上の真中に立たされ吊るされた縄の輪を首にかけられました。 “それっ”という合図に、足元の板が下の方に左右に開い て下へ落とされる仕掛けです。男は、“もうだめだ”と思うと、なぜ自分がこんな目にあうのかと怒りの心がわきあがってきました。

しかし、どうすることもならないと思うと、これは何かの間違いだと思い、その心はやが てあきらめの心となっていくのです。すると、子どもの頃の楽しかったことや、つらくて悲しかったことなどが、つぎからつぎへと頭の中をかけめぐりました。そのとき、スウッと 身体が宙に浮きました。足元の板が左右に開いたのです。

 

ドスンと樹の下へ落ちた男は、まだ正気にかえりません。 ポカンと空を見あげ、何やらブ ツブツとつぶやいています。

「毒ヘビだ、毒ヘビだ。……穴の中の毒ヘビだ、黄金だ。……毒ヘビだ」

といっているようです。やがて気がおちつ いたのか
「そうだおれは、しばり首になるところだったんだ。 夢を見ていたんだ。ああ、夢でよかった。」

と胸をなでおろしたとたん、落ちた拍子に打ったお尻が急に痛みだしました。もし、夢でなかったら今頃は……と思うとお尻の穴から冷たい風が脳に抜けていくように、ブルブルッと身ぶるいをしました。

 働かないで得たお金の恐ろしさを夢が教えてくれたのです。 それからの男は生まれかわったように働くようになりました。