お知らせ

インド孔雀の長老

雪のマントを着たヒマラヤ山脈のふもとに、一本の古くて大きな樹が傘のように枝葉をひろげていました。そのかげに一羽のインド孔雀と、一匹の猿、一頭の象がいて、それぞれの仲間たちをたばねていました。

インド孔雀は、ときどき扇のように羽をひらきます。藍色に光ったその羽はとてもきれいで、私こそ、世界中でもっとも美しいと 思い、羽をひろげるたびに大きな樹のまわりを満足そうに歩くのです。

その大きな樹の上を見あげると赤い顔をした一匹の猿が、太い枝の根もとに腰をかけ、いつも瞑想にふけっています。猿は、もっとも人間に近く、かしこい動物だといわれてい ます。今日もひたいにシワをよせて、もの想いにしずんでいます。動物たちのなかでは自分 が一ばん知恵者だと思いこんでいるようです。

知恵のほうはともかく、からだが大きくて 力の強いことでは、世界一だと思っているのが象です。鼻はとても長くて、まるで手のように自由自在なはたらきをします。白くてオシャレな二本のキバがよく似合い、大きな からだを重そうにズシズシと歩く姿は小さな山のようです。

この象と孔雀と猿は、それぞれの生きかたがあり、自由に気ままにくらしてきました。いままでおたがいに尊敬しあったことがありません。みんな自分こそが、一ばん美しく、か しこく、強いのだと思っているからです。

ある日のこと、今日も、なにやら考えこん でいた猿が、樹からスルスルと降りてきて孔雀と象にいいました。

「われわれは、自分がもっともすぐれていると思いこみ、いままで、おたがいに尊敬しあうことをしなかった。これはいけないこと だと思う。そこでだ、われわれのうちで、一ばん早く生まれたものを先輩として尊敬しようと思うが、どうだろう……」

「さすがに猿くんは知恵者だけのことはある。まったく、きみのいうとおりだ」

と孔雀と象は声をそろえて賛成をしました。

「ありがとう。では、象くんにたずねるが、 きみは生まれてからどのくらいになる?この大きな樹とどちらが古いか?」

と猿はたずねました。

「うむ、そうだなあ。私が少年のころ、 この樹はちょうど私のおなかの下ぐらいの大きさだったなあ。まあ、このなかでは私がいちばん古いだろう」

と、得意そうに鼻をふりふり 答えました。

こんどは、象が猿にたずねました。

「そういう猿くんはどうなんだね」

「よくたずねてくれた。ほくの子どものころ、 こうしてうずくまって、樹の頭の芽を引っぱったりして遊んだものだよ」

「うむ……、それなら、猿くんは私よりずっと年長だ。これからはきみを尊敬するから、いろいろと教えてくれたまえ」

と、象は 大きなからだをゆすりながらいいました。 つぎに猿は、孔雀にむかって、

「きみはどうです?」とたずねました。ここに、 

「うむ、なにしろ古い話なので定かではないが……そうだ、まだ私が小さいころのときだった。どこだったかすっかり忘れてしまったが、この大樹の果実をどこかで食べて、 ここに大便をしたことがあったが……そうだ、そのとき私の大便のなかから果実の種が 落ちて芽をだし、それが、いつのまにかこん なに大きくなったのだ」

と、古い記憶をたどりながら答えました。

「それなら きみはぼくよりはるかに年長 者だ。 われわれは、これからきみを長老として敬うことにしよう」

と、猿がいいました。

こう して、象は猿を先輩として敬い、いろいろと 知恵をさずかり、自分の仲間たちにそ れを伝えました。また猿は、インド孔雀を長老として敬い、自分のわからないことは、い ろいろとたずねて、ますますかしこくなりました。

インド孔雀は長老として、美しい心を養い、みんなの手本となり、からだが大きくて力の強い象を尊敬することにしました。

このようにして、おたがいに尊敬しあうようになり、その心が森のほかの動物たちにも伝わり、すばらしい平和な世界ができあがっ ていきました。 それが、やがて人間社会にもひろがっていったということです。