お知らせ

二人の古もの行商人

 ある街に二人の商人が住んでいました。一人はまだ若くて正直もので、もう一人はとても欲がふかく、あまり信用がありません。どちらも古もの商で「何かお払いものはありませんか」と声をかけながら行商してあるきます。ときには、掘りだしものがあって売手と話あいをして、少しでも安く買いもとめ街へ帰って高く売ります。

 今日も二人は、遠く足をのばして行商にでかけました。背中には買いとった商品をいれる箱を背負い、村から村へと、「何かお払いものはありませんかぁ………」と、声をかけながらたずねて歩きます。 やがて大きな川のほとりにつきました。 欲のふかい商人はひと足さきに舟にのり、向こう岸の村にはいりました。

 

 その村にはお父さんを亡くした、幼い娘二人がお母さんと貧しく暮らしていました。

「何かお払いものはありませんかぁ・・・・・」

 そのかけ声をきいた娘は、お母さんにいいました。

「大事にしまってある、あの器を売りましょうよ」

と、それはこの家に昔からつたわる金でできた器です。とても大事な器です。しかしお母さんは、生活にはかえられないと思い商人を呼びいれました。

商人はその器をつくづくながめて、これは大へんな宝ものだと気がつくと、もちまえの欲がでて、娘をあざむいてうばってやろうとくわだてました。

「せっかくですが、これは本物のようで本物ではありませんなぁ。ニセモノですからなんの値うちもなく、鉄くずにしかなりませんよ。ほかに何かありませんか。 ……そうですか、それではまた……」

と、そっけなくその家をでていきました。

 母娘は、値うちのないものといわれ、と ても恥ずかしい思いをしました。

 

 正直ものの若い人は、おくれてその家にたどりつき

「何かお払いものはありませんかぁ」

とたずねました。お母さんは前の人のこともあるので、ことわろうとしましたが、

「こんどの人は、とても正直そうだから」

というので、おそるおそる器をみせました。

 手にとって一日みた若い商人は、はっとおどろき、こんどは念を入れて見つめているうちに、顔に赤みがさしてきました。

「これはすばらしい。たいそうな器です。この金もそこらにあるような金ではありません。 宝ものです。 よろしければ、いま もっているお金ぜんぶをさしあげます。どうぞゆずってください」

といって、帰りの舟賃だけもどしてもらい金の器を抱きかかえるように来た道を喜びいさんで帰っていきました。

 いっとき恥ずかしい思いをした母娘は、正直ものの商人にあえて、肩を抱きあって喜びました。

 

 こちらは胸に一もつのある欲のふかい商人です。あの金の器はもう自分のものだとばかり、頃合いをみて、ふたたび母娘の家をおとずれました。

「やあぁ、先ほどの器はつまらないものだが、みれば生活にお困りのようで、お気の毒と思いひきかえしてきましたよ。 少しだけれどお金をおいていきますから、あの器をお出しなさい」

とぬけぬけと、わずかなお金ときたない手を出しました。

「せっかくのご親切ですが、たったいま若い商人がみえて、これはまたとない宝ものだといわれて、もっているお金ぜんぶで買いとってくださいました。それでもまだお金が少なすぎるといって、たったいまお帰りになりました」

と、それをきいたよくのふかい商人は、「あっ」と腰もぬけんばかりにおどろき、顔は青ざめて、息も絶えだえになって、川のほとりまで夢中で駆けだしました。 みれば若い商人をのせた舟は、もう川の中ほどまで進んでいました。

「おーいその舟まてぇ…… おれの宝をかえせー、おれの宝をもどせぇー」

と大声で叫ぶうち、とうとう大地にて血を吐いてしまいました。

 

 若ものの商人は、その叫び声におどろいてもどってきたときにはもう冷たくなっていました。

欲が身を滅ぼしたのです。 正直な若い商人は、両手を合わせて目をつぶり、静かに冥福を祈りました。