12月
2024年
腹を括りなさい
余命幾ばくもない弟子に
日蓮御聖人が送った手紙に書かれていたこととは
みなさんは、「セロトニン」という名前を聞いたことはありますでしょうか?
これは、脳の中で、神経を伝達する役割を担う、そういう物質で、私たちの精神を安定させるうえで、とても大きな働きをするそうです。
ある学者によりますと、われわれ日本人は、もともとこのセロトニンが少ない体質だそうです。
で、このセロトニンが少ないとどうなるか、といいますと、「すごく心配性になってしまう」そうなんです。
ですから、日本人は他の国の人と比べて、心配性の人が多いらしいんです。
いまこの話を読んでくださっているみなさんも、「そうだなぁ、自分もどちらかというと心配性だなぁ」、そう思われる方がたくさん居られるのではないかと思います。
日本は、環境的にも島国で、地震や台風といった自然災害と、いつも隣り合わせで生きてきましたので、ある意味当然なのかもしれません。
実は私も心配性なんです。大なり小なり、いつも何か心配事を抱えています。
振り返ってみて、いちばん悩んだのは、もう20数年前の、あることです。私は出張先で、交通事故に遭ってしまいました。
ほんとうなら命を落としていてもおかしくない、そういう大きな事故だったんです。
幸い、なんとか一命はとりとめることはできたんですけれども、足を折っていましたので、歩行が困難になって、リハビリの毎日を過ごすことになりました。
ですから職場復帰するのに、数か月を要してしまいました。
そして、やっと職場復帰しましたら、いつも声をかけてくれていた先輩が居ないことに気づいたんです。周りに聞いてみましたら、どうもその先輩は「戦力外通告」を受けて、リストラされてしまったらしいんです。
そのことは私にとっては、とてもショックでした。そして、なぜか当時の私は、こんな風に考えてしまったのです、「次にリストラされるのは自分だ!」。
毎日毎日、そのことで頭がいっぱいになって、仕事も手につかなくなり、鬱病の一歩手前まで行ってしまったんです。
いま考えてみますと、まったく根拠のない「思い過ごし」だったんですが、調べてみましたら、交通事故に遭うと、それがキッカケで、心の病に罹る方が多いらしいんです。私もちょうどそれと同じだったわけです。
で、結局、自分からその会社を辞めました。そして新しい職場に移ったことで、その不安は消えて、以前のような普通の生活ができるようになりました。
今、当時のことを振り返ってみますと、「なんであんなに悩んでいたのかなぁ」と思いますけれども、しかし当時は、ほんとうに苦しかったんです。
みなさんのなかにも、いま、大きな悩みをお持ちの方が居られるのではないかと思います。
じつは日蓮御聖人のご信者にも、悩みを抱えていた方はたくさん居られました。
御聖人が、そういうご信者の悩み・不安に対して、どういう対応をされていたのか、そのなかの1つを本日、ご紹介したいと思います。
『南条兵衛七郎殿御書』、というお手紙に書かれていることを取り上げようと思います。
今の静岡県の富士に、南条兵衛七郎というご信者がいました。この南条さんという方は、鎌倉幕府の御家人で、ちょうど鎌倉で勤務をしていた時に、御聖人のお話を聞いて、それに打たれて、ご信者になったといわれています。
その南条さんですが、病床に伏してしまうんです。それも、もうたぶん助からないだろう、そういう重篤の方に、御聖人はお手紙をお与えになったんですね。
実際に、この手紙を受け取って、数か月後に、この南条さんは亡くなってしまいます。ですからそのお手紙は、余命幾ばくもない、これから旅立とうとしている方に対して、与えられたものなんです。
では、どういうことが書かれているか、と言いますと、書き出しはこうなんです。
「ご病気と伺ましたが、本当でしょうか」、こういう書き出しで始まるんです。続いて、これから死に向かって旅立とうとしている南条さんに対して、「あなたが今生で信じたこの法華経が、いかに素晴らしい教えなのか」ということを、懇切丁寧に、こころを込めて諄々と説かれるんです。
そして、「法華経はそのように大変素晴らしい教えです。しかしあなたの一族には、念仏の信仰をする人がたくさんいて、あなたに念仏の教えを勧める人もいるでしょうけれども、絶対にそれを信じてはいけません」、そう強く説得されるんです。ここに妥協は一切ないんです。
そのうえで、「じつは自分も、つい先日、念仏者たちに襲われて、弟子の一人はその場で殺され、また二人は重傷を負った。自分も切られ、また腕を折られてしまった。
しかし何とかこのように生きています。そして私の信仰は、ますます強くなるばかりです」、そう述べられておられます。
その上で、「このように法華経を体で読んでいるのは、日本においては私をおいて他には居ません。この日蓮こそ『日本第一の法華経の行者』です。あなたは、その私の弟子なのですから、たとえあの世に逝ったとしても、『私は日本第一の法華経の行者・日蓮聖人の弟子です』、そのように、堂々と名乗りなさい」。このような、力強い言葉で慰めておられるんです。
南条さんも、自分はもう長くないだろう、「死」を悟っていたと思います。当然、「死」ということに対する不安も、あったはずです。
そんな南条さんに、「腹を括りなさい。そして今生の最後まで、法華経の信者として通しきりなさい」、そう仰るんです。
それも、ただ言うのではなく、自分も念仏者から襲撃を受けて命を狙われたけれども、こうやって信仰を捨てずにいます。だからあなたも決してご信心を捨ててはなりませんよ。そのように、「常に自分も一緒である」、そういう姿勢を示しておられる、最大の励ましだと思います。
お手紙をいただいた南条さんは、最後までご信心を捨てずに、素晴らしいお顔で亡くなられたそうです。そして息子がご信心を受け継いでいくんです。
現代を生きる私たちも、大なり小なり、いろいろと悩みは尽きないと思いますが、もし不安や心配事で苦しくなった時は、こう思うようにいたしましょう。
「自分も日本第一の法華経の行者・日蓮聖人の弟子なんだ。だから必ず道は開けるんだ」
そういう気持ちで、常に御聖人と一緒であるという安心感をもって、毎日を進んでまいりたいと思います。
明日からまたお互いに、頑張って参りましょう。